世界が注目する「利他」(その1)
自分の利益よりも、他人の幸せを優先してこそ
「与える人」こそ成功する
先回の最後に触れた「利他」について、掘り下げたいと思います。人生の目的と、深い関係があるからです。「利他」とは、他人の幸福のために行動することをいいます。
自分のことは後回しにして、他人の幸せを優先する「利他主義」に対して、自分の利益だけを追求するのが「利己主義」(エゴイズム)です。皆さんの周りには、困っている人のために自分の時間や財産、能力を進んで「与える」タイプの人もいれば、それとは反対に、助けてもらったり、教えてもらったりするばかりで、「奪い取る」ことしか考えていない人もいるのではないでしょうか。ほとんどの人は、その中間でバランスを保っています。親切にしてもらった相手には、それ相応のお礼をしますが、恩を仇で返されたり、「利用された」と感じたりしたら、そんな人からは遠ざかるという、「ギブアンドテイク」の処世術です。
これら3とおりの生き方で、いちばん成果を上げられるのは、どれでしょうか。組織心理学者のアダム・グラント教授は、世界中でベストセラーになった著書『GIVE&TAKE 「与える人」こそ成功する時代』で、分野を問わず最も成功するのは、「与える人」だと論じました。この本では、長い目で見れば、自分より他人の利益を優先する人が最大の恩恵を受けることを、豊富な実例とデータで示しています。
「思いやり」が成功を生む理由として第一に挙げられるのは、「与える人」は評判がよく、豊かな人脈を築けることです。多くの人とのつながりがあれば、情報、知識、技術が集まりますし、有力者と親交があれば、影響力も手に入れられるでしょう。これらは成功に欠かせない要素です。
「奪う人」は、自分の能力をアピールして上司に取り入るのがうまいので、巧みに人脈を広げますが、しょせん利益が見込める人としかつきあわないので、範囲が限られます。同僚や部下には傲慢な態度をとるので、悪いうわさが広まり、結局は下心があって近づいていたことを見抜かれてしまうのです。自分に利益をもたらさない相手に、どう接するか。人の本性は、そんなところに現れるものなのでしょう。
「奪う人」は周囲と競争して成功をつかむので、負けた人たちは、チャンスがあれば引きずり下ろそうとします。ところが「与える人」は、相手が得をするにはどうすればよいかを考えて仕事をするので、味方が増える一方です。敵がいないのですから、これほど成功しやすい環境はないでしょう。
(『月刊なぜ生きる』令和5年7月号より)
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『月刊なぜ生きる』令和5年7月号
価格 600円(税込)