世界が注目する「利他」(その2)
他人を幸せにすれば、自分も幸せになれる

自分ほど分からないものはない

私が生きる目的を知るには、「私」とは何かを知らなければなりません。自分のことは自分がいちばん知っていると思いがちですが、本当でしょうか。ニーチェ*が「おのれ自身にもっとも遠い者」は自分だと言っているように、自己ほど分からないものはないのです。

そもそも、私はなぜ、この世に生まれてきたのでしょうか。両親がいたからです。では父と母はなぜ、生まれたのか。それぞれに親(私から見れば祖父母)がいたからです。はるか700万年前まで先祖をたどると、アフリカに誕生した最初の人類に行き着きますが、彼らは身長といい脳の大きさといい、今のチンパンジーとほぼ同じなので、およそ人間には見えないでしょう。

さらに祖先をさかのぼると、もはや哺乳類でもなくなり、約40億年前に存在していた、一つの生物にたどり着きます。それこそ、地球に存在するあらゆる生き物の先祖です。生物学では、LUCA(最終共通祖先)と名づけられています。人間から動物、植物、昆虫、細菌に至るまで、生きとし生けるものは皆、このLUCAの子孫なのです。裏を返せば、一切の生物は私たちの兄弟であり、親戚ということになります。

では、そのLUCAは、どうして生まれたのでしょうか。地球があったからです。では、地球が約46億年前に誕生した原因は何でしょうか。それは、はるか昔、遠い宇宙の果てで、寿命が尽きた星が爆発したからです。その時、まき散らされた破片が集まって、地球や太陽を作ったのです。

地球も太陽も私たちも、みんな宇宙を旅した星くずでできています。しかし材料がそろうだけでは、星は生まれません。いろいろな物質を引き寄せる、「重力」が必要です。

すべての物質と物質の間には、互いに引きつけ合う「重力」という力が働きます。階段を上ると疲れるのは、地球が私たちを下に引っ張っているからです。その重力に打ちかたないと、上には移動できません。

もし重力が今より弱かったならば、物質は集まることができず、星は誕生しませんでした。反対に重力が強すぎても、みんなくっついてしまって、太陽の周りを回転し続けるような、安定した惑星はできません。重力が、ちょうどよい具合に微調整されているおかげで、星も生物も存在しているのです。

では、重力はどこからやってきたのでしょうか。それは約138億年前、この宇宙が誕生した直後に発生したといわれています。絶妙な強さの重力が生まれたおかげで、私たちの地球が存在しているのです。

自分が今、呼吸をしているのは、何でもないことのようですが、その原因は無数にあります。大宇宙が、総掛かり になっているのです。私一人に、138億年の歴史が収まっています。私という人間が存在するためには、全宇宙が必要なのです。

*ニーチェ……ドイツの哲学者

(『月刊なぜ生きる』令和5年8月号より)

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『月刊なぜ生きる』令和5年8月号
価格 600円(税込)