【5月号 試し読み】巻頭インタビュー

「人間とは何か?」の追求からたどり着いた
古典の名著との出会い


「みどりの窓口」や、大手企業のロゴマークを
考案してきたアートディレクター

稲垣行一郎さん
(元名城大学人間学部教授)

昭和30年代に大ヒットした「トリスを飲んでHawaii(ハワイ)へ行こう!」で有名なウイスキーの広告をプロデュースしていたのが、稲垣行一郎さんである。

以来、駅の「みどりの窓口」をはじめ、「西友ストアー」や「ロイヤル」「三洋電機」といった大手企業のロゴマークを次々に世に送り出してきた。

時代の最先端を走ってきた稲垣さんが「人間とは何か?」を模索する中で、たどり着いたのが古典の名著『歎異抄(たんにしょう)』の言葉であったという。

「もうこれ以上できないというところまでやれ」を信条とする希代のデザイナーを東京・南青山のご自宅に訪ねた。

(中略)

──幸せとは? 人間とは? 
というのは大きな問題ですね。

深く考えるようになったのは、70歳で大学教授を定年退職した頃です。
ずっとワーカホリック(仕事中毒)のような生活で、じっくり考える時間がありませんでした。

人間とは何か?を考える時に、注目したのが「百年企業」でした。

100年以上も続く老舗に共通するのは、信用があることです。
そこには家訓のようなものがあって、和、信、誠を重んじ、怠惰を戒めています。

企業を支える人間への深い洞察があり、何かヒントになるのではないかと思ったのです。

◆松下幸之助と富山の薬売りの「掟」

注目した企業の一つは、平成30年に創業百年を迎えたパナソニック、かつての松下電器でした。

特に創業者の松下幸之助さんが「ナショナルショップ」のチェーンをどのように作っていったのか知りたかったのです。

親しまれる街の電気屋さんが近所にあったので、松下電器の製品は家庭に広がっていきました。

調べると、松下さんは、越中富山の薬売りに詳しい人を呼んで、なぜ富山の置き薬が全国に広まったのか、なぜ300年も続いたのかという話を聞いたそうです。

富山の薬売りについて調べてみると、面白いことが分かってきました。

──どんなことですか。

薬売りは全国の家庭を回りますから、信頼と信用が大切です。

羽目を外してトラブルを起こすと、薬売り全体のイメージが崩れるので、女遊びや飲酒、賭け事はしない、人の悪口は言わない、借金はしない、といったルール、「掟」が作られていきます。

正直や勤勉、倹約、礼儀作法、教養、モラルに裏づけられた気づかいですね。

これらを大事にしたからこそ、信用が生まれました。薬のこと以外にも、農作業の相談に乗ったり、仲人を頼まれたりすることもありました。

松下さんはそんなことをヒントに、街の電気屋さんの組織をまとめていったのです。

◆勤勉な薬売りの精神的バックボーンに仏教の教え

──薬売りの信用の基となる「掟」を守り続けた心はどこから生まれたのでしょうか。

何かよほどしっかりとした精神的なバックボーンがあったのではないかと思いました。

僕のセミナーに来ていた京都の本願寺の人から、富山などの北陸地方は室町時代に蓮如上人(れんにょしょうにん)が赴き、浄土真宗の教えが浸透していたと聞いて、これだと思ったのです。

どのように教えが伝えられたのか調べると、興味深いことが見えてきました。

(・・・本誌につづく)

その後、仏教の教えに関心を持った稲垣さんが手にしたのが『歎異抄』の解説本『歎異抄をひらく』ー。

「悪人」が人間の代名詞とする『歎異抄』の驚くべき人間観に触れ、目の覚める思いがしたそうです。

教育心理学博士でもある稲垣さんは「『歎異抄』の言葉は心理学よりももっと深いところを抉り出しているように思えます」と語ります。

先行き不透明な今こそ「人間とは?」「幸せとは?」を静かに見つめる時間を持ちたいものですね(^^)

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俳優・大学教授・ベストセラー作家など各界で活躍中の方の生き様や、健康や生き方のヒントになる話、心やすらぐ仏教のお話まで幅広い話題を1冊に凝縮した月刊誌です。

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