旭山動物園の名物園長「命の大切さを伝えたい」|巻頭インタビュー
閉園の危機にあった動物園を、国内屈指の人気スポットに育て上げた北海道旭川市の旭山動物園・前園長の小菅正夫(こすげ まさお)さん。「行動展示」が人気の目玉となった。奇跡の再建を成し遂げた小菅さんが考える動物園の使命とは―。
動物園の役割って何だろう?
原点は「命」の大切さを伝える
──「奇跡」を成しげて、どんな思いになられましたか。
入園者が増える中で思ったのは、動物園本来の役割とは何だろう、ということです。これが明確でないと、やがて動物園はなくなってしまうと思ったのです。
──動物園の役割とは何でしょうか。
動物たちの姿に触れて、「命」の大切さを感じてもらうことだと思うのです。命を軽視する事件を目にするたびに、子供たちは今、「命」というものが分からなくなっていると感じます。現代社会は、死というものを忌み嫌い、日常か「死」の風景を遠ざけています。核家族化や、死を病院で迎えることが増え、老いと死が、現実感を失いつつあるのです。「死」を実感しないと、「生」が分からない。「生と死」が分からないと、「命」が分からない。命が分からないと、自分の命も他人の命も大切にすることができません。ウサギやヤギと触れ合う「こども牧場」を作ったのも、そんな危機感が私たちにあったからなのです。
──命の大切さを実感するとは、どんなことでしょうか。
先日、友人のカメラマンが、ある小学校で飼っているヤギの出産の撮影に行きました。苦しそうにするヤギの周りに集まった子供たちは「頑張れ」って声をかけます。ヤギはまだ二歳です。ある女の子は「二歳で赤ちゃん生むんだね」ってつぶやきましたが、これがまさに「共感」です。この女の子は、自分の子供というのを意識しているんですね。
残念ながら結果は死産で、涙を浮かべる子もいました。でもこの時、子供たちは命というものを実感したと思うのです。自分は当たり前に生まれ、当たり前に生きていると思っていますが、このヤギの姿を見たおかげで、自分も、お母さんが大変な思いをして生んでくれたことが実感として分かる。もしかしたら、私も無事に生まれてこられなかったかもしれない。お母さん、無事に生んでくれて、ありがとう、って初めて本当の感謝の心が生まれてくるのだと思うのです。
(『月刊なぜ生きる』令和2年10月号より一部抜粋)
本誌では、「夢」の実現に向けて奔走する姿を紹介しています。
- 「奇跡」を生んだ「やると決めたらやる」
- 努力は「夢」の一歩手前までは必ず連れていってくれる
- 「死」と向き合ってこそ精いっぱい生きられる
- 消えたエゾリス 市民と動物園が協力
- 国内初の動物園条例 命を大切にできる社会に など…
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