【試し読み】「ただめし」券のあるお店、「未来食堂」誰もが受け入れられる場所を求めて |小林せかい

「童話チックだと思いませんか? 誰でもただでご飯を食べられるお店が東京のど真ん中にあるなんて」と、いたずらっぽく輝く目でほほえむ。東京・千代田区で小林せかいさんが営む「未来食堂」はそんなお店だった。開店から6年。「お金がないことを理由に、入店を断りたくない」の思いで始まった、「一食無料」という善意の仕組みはどうして続いているのか。大手企業のITエンジニアという経歴も持つ小林さんを訪ねた。

メニューは「日替わり定食」1種類

見知らぬ誰かへ
「ただめし」券

店の特徴の一つは、入り口のボードに貼ってある「ただめし」券。張り紙にはこう書いてある。「誰でも使えます。はがしてもっていき、カウンターに置くと、一食無料になります。困った時に使って下さい」

使用済みの「ただめし」券を見せてもらうと、「未来食堂」の印の押された券の裏側には、券を使った人のコメントが書いてあった。

「仕事がうまくいかず、あまり食べていなかったので助かりました」

「数日、まともな食事ができていませんでした。おいしかったです」

「未来食堂の方はすごく親切でホッとしました。感謝してます」──。

小林さんは「券を使う人は週に平均3、4人。全体の1パーセントくらいですね。お金のない人ばかりとは限らないと思いますが、たとえ百人のうち一人でも、本当に困っている人に届けばいいなって思っています」

この「ただめし」券は、どのように用意されるのだろうか。これを支えるのが、「まかない」という仕組みだ。「まかない」とは、食堂を一人で切り盛りする小林さんを手伝う人たちのことという。

「希望者にはどなたにでも、手伝ってもらっています。50分働いた人には、一食分のただめし券をお渡しします。券は自分で使ってもいいのですが、やがて店を訪れる見知らぬ誰かのためにボードに貼っておくこともできるのです」

多種多様な思い
循環させる未来食堂

ただめし券の表面には、「まかない」さんたちからのメッセージが記されていた。

「おいしいご飯を食べて、また頑張りましょう!」

「券を使う人に、よいことがたくさんありますように」

「おいしくなあれと願って作りました。券、使ってくださいね」──。

以前、「まかない」をしていた女性は「あったかいご飯がどなたかに届けばと思って、ただめし券をボードに貼りました。思いやりのようなものが、必要な人に届くという循環が『恩送り』のようでいいなあと思っています」。この女性は「まかない」で学んだノウハウを生かし、今は東京近郊で弁当店を開業している。

小林さんは「『まかない』に来る人の動機はさまざまです。店を開くための見習いで来る人、定年後に何かやろうとしている人、引きこもっている人、お金のない人などいろんな方がいます。ただ、そのおかげで店が毎日回転して、ただめし券がなくなることもありません」

「まかない」をする人は年間のべ約450人。それぞれの希望に応じて50分単位の予定表に組み込んでいく。

「子供や孫たちが次々に助けに来てくれるおばあちゃんのような心境」と小林さんは笑う。

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未来食堂には、他にもユニークな仕組みがある。

お客さんの希望に応じ、その日にある食材から小鉢を用意する「あつらえ」。「青物が食べたい」「何か温かいものを」などの声に、小林さんが機転を利かせた一品を調理する。また、飲み物の持ち込みを無料とする代わりに、その半分は他のお客さんに無料で提供してもらう「さしいれ」というシステムもある。

人々の多種多様な思いを自然な形で受け入れ、循環させていく未来食堂。こうした食堂はなぜ生まれ、どんな未来を思い描いているのだろうか。

(『月刊なぜ生きる』令和3年11月号より)

本誌では続けて、誰もが受け入れられる社会を目指してどんな取り組みをしているのかを語っていただきました。

全文をお読みになりたい方は『月刊なぜ生きる』令和3年11月号をごらんください。

『月刊なぜ生きる』令和3年11月号
価格 600円(税込)