【試し読み】売り上げを減らそう!「100食限定」から生まれた「幸せ」を考える働き方

人気のステーキ丼がどれだけ売れても、「一日100食」限定──。営業はランチタイムだけなので従業員は「残業ゼロ」で生き生きと働き、「食品ロスもゼロ」という。そんな人と環境に優しい経営で注目を集めるお店が京都市内にある。国産牛ステーキ丼専門店「佰食屋」。ニンベンのある「佰」の字を店名に選んだのは「人を大切にしたい」という願いからという。その思いはどこから生まれるのか。「100食」をキーワードに、幸せを追求する経営者、中村朱美さんに聞いた。

どんなに売れても
「千食屋」にはしない

店内で、牛モモ肉のブロックを丁寧に切り分け、肉汁をたっぷり含ませて焼き上げる手法は、大手チェーン店でも家庭でもマネができない。「そんな味を食べていただきたいと思ったのが店の始まりなのです」

1100円(税込み)で食べられる人気の国産牛ステーキ丼。肉に覆われて中のご飯が見えない。

店先に目をやると、開店の午前11時前から、ランチの整理券を求める人たちが集まってくる。だから毎日、100食は三時間半で完売。翌日の準備をして午後5時台には店のシャッターが下り、従業員は帰宅の途に就く。

「そんなに売れるのなら夜も営業したら?」と言ってくる人は少なくない。「二百食屋、千食屋にするのが経営者の手腕では、という声も頂きます。でも、なぜ売り上げを伸ばさないといけないのか。それは、従業員の幸せにつながるのでしょうか?」と中村さんは言葉に力を込める

シェフの父は帰りが遅い
売り切って早く帰ろう

「飲食店といえば、長時間労働、土日も休めない、ギリギリの人数で切り盛りするといった大変なイメージを持つ人が多いでしょう。ホテルのレストランのシェフだった私の父も、帰宅はいつも家族が寝たあとでした。その父が交通事故に遭いシェフを辞めて初めて、家族一緒に過ごせる時間が持てたのは、皮肉なことでした」

本来、楽しい食事を提供する飲食店で働く人が、幸せを感じられないとしたらおかしい。この現実を変えることはできないものか。そう考えて、たどり着いたのが「売り上げを減らそう」という逆転の発想だった。

「喜ばれる商品を時間内に売り切って、早く帰れる仕組みを作れば、みんなのモチベーションも上がります。経営者は事業成長を考えますが、従業員にとって重要なのは自分の時間です。人生で本当に大切なことのために使える時間は、お金と同じくらい魅力的なことではないでしょうか」

「働きやすさ」と「経営」が両立するラインを計算していって導き出したのが「一日100食」の働き方だったという。

売り上げを捨てて
人が喜ぶ経営に

この「100食」限定は今、好循環を生み出している。中村さんはこれを「お客さんよし、従業員よし、会社よし、仕入れ先よし、環境よし」の「五方よし」と呼ぶ。

手頃な価格で〝ごちそう〟を味わえる「お客さん」は喜び、「従業員」も残業がなく、百貨店並みの給与で有給休暇も完全消化。「初めて子供と一緒にお風呂に入れた」「夕方からのスポーツクラブに参加できた」などの声が上がる。中村さんは「私も二人の子の育児があり、家族の時間はきちんと確保したい。だから、自分のやりたくないことは従業員にもさせたくないのです」と言う。

さらに、「会社」経営は単純化されて安定し、年間を通して一定量の食材を出荷できる「仕入れ先」からも喜ばれ、無駄な食品の廃棄はないので「環境」にも優しい。

こんな新しい働き方が注目を集め、中村さんは日経WOMAN「ウーマン・オブ・ザ・イヤー2019」大賞(平成三十年)などを受賞している。

「売り上げを捨てることで、みんなが喜ぶ持続可能な経営が生まれました。売り上げ至上主義にこの循環はありません。売り上げが永遠に伸び続けるというのは幻想なのです」と語る中村さんは「佰食屋のいいところを、日本に広めたい」と考えている。

プロフィール

中村 朱美(なかむら あけみ)

平成24年 「株式会社minitts」設立、代表取締役就任
国産牛ステーキ丼専門店「佰食屋」オープン

第32回人間力大賞農林水産大臣奨励賞、Forbes JAPAN WOMEN AWARD 2018新規ビジネス賞、
日経WOMAN「ウーマン・オブ・ザ・イヤー2019」大賞など数々の賞を受賞。

(『月刊なぜ生きる』令和3年7月号より一部抜粋)

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