【試し読み】古典を楽しむ『徒然草』~大根に功徳があるって、本当ですか?~

こんな話が伝わっています。

九州に、何とかという役人がいました。

その男は、「大根こそ、すべての病気に効く薬だ」と信じて、毎朝、二本ずつ焼いて食べていたそうです。男は飽きずに、そんな習慣を、長い年月にわたって続けていました。

ある時、その役人の屋敷に守備兵が一人もいない時を狙って、敵が襲ってきたのです。屋敷を取り囲み、大勢の武士が斬り込んできました。

すると、突然、屋敷の奥から二人の武士が現れ、敵の侵入を防いでくれるではありませんか。彼ら二人が、命を惜しまずに戦ったので、敵は皆、逃げていってしまいました。

この屋敷の主は、不思議でなりません。目の前にいる二人の武士とは、これまで、一度も会ったことがないからです。

「私を、命懸けで助けてくださったあなた方は、一体、どなた様でしょうか」と尋ねると、

「あなたが、永年、信頼して、毎朝、お食べになっている大根でございます」と言って、すっと消えていったとか……。

これを、大根の功徳というのでしょうかね。

◇◆解説◆◇

大根が武士になって現れ、敵を追い払ってくれた……。こんな話、信じることができますか。

兼好法師は、「世間で、まことしやかに語り伝えられていることは、うそばっかり」の実例として挙げたのでしょう。

八百屋が大根を宣伝するために作った話ならば、まだ笑って済まされます。

もしかしたら、大根を霊験あらたかな本尊として祭り上げている信者が、功徳の実例と称して創作した話かもしれません。

「世間には、うそが多いことを知ったうえで、何を信じるか、よく考えてから行動したほうがいいですよ」という兼好法師のアドバイスです。

【原文】

筑紫(つくし)に、なにがしの押領使(おうりょうし)などいうようなる者のありけるが、土大根を、よろずにいみじき薬とて、朝ごとに二つずつ焼きて食いけること、年久しくなりぬ。

ある時、館の内に、人もなかりけるひまをはかりて、敵襲い来て、囲み攻めけるに、館の内に兵二人いできて、命を惜しまず戦いて、皆追い返してけり。     (第六八段)

(『月刊なぜ生きる』令和3年6月号より一部抜粋)

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