【小説】泣こよかひっ飛べ
第7回 チェスト! いけ!

(前回までのあらすじ)

桜島を臨む港から、ただ一人舟に乗り、武者修行の旅に出発した啓一郎。不安や躍動を胸に懐きながらの舟旅も終え、浜之市の港に到着した。しかし、思い描いていた武者修行の旅とは異なり、何もかも不本意だった。すると、突如、先の方で勝どきのような声が聞こえてきた。

◆◇◆

「何ごとだろう」と、声のした方をたどっていくと、さっきまでまるで閑散として、人の影どころか犬、猫の姿も見なかったのに、いつの間にか子供たちが、それもこんな閑散とした町にどこから降って湧いたのか20人ほどが、大きな銀杏の根方に固まって騒いでいる。驚いたことにそれが、揃いも揃って、皆裸足で、その上、砂まみれの真っ黒い顔をしているから、誰が誰なのか、さっぱり見分けがつかない。それでも暫く見ているうちに、騒いでいると思ったのは間違いで、荒々しい中にも、それには決まった動きがあることに啓一郎は気がついた。これは何かの遊びに違いない。それにしても、こんな遊びは今まで見たことがない。武士の子弟は本来外遊びというものはしない。ご城下の町人の子供たちのする遊びを時々外見にはするが、こんな激しい遊びはしない。まるで戦のようだ。

「なんて野蛮なことをしているのだろう」

そう思いながら啓一郎は、ついさっきまで子守の小娘がいた辺りに腰をかけて、つくづくそれを眺めていた。

それで、わかったことは、総勢20人程度の子供が敵、味方二手に分かれていることだった。そこまではわかったのだが、肝心の、それがどういったような遊びなのかがわからない。わからないまま、暫く見入っていると、突然、号令らしい一声が上がった。上がったとみるや、それまではあれほど激しく動き回っていたものが、一斉に動きを止めた。

行き場のない砂埃が暫くその場を浮遊し後、風に吹かれていった。

子供たちは二手に分かれて、固まったまま、まったく動く気配がない。啓一郎はじっと息を詰めて見つめた。

一体、何が起きたのだろうか。

(『月刊なぜ生きる』令和4年8月号より)

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