なみうちぎわ三ちょうめのアサリ
~東北工業大学・アニメ関連授業との共同企画~
つぎつぎに立ち上がる白いなみがおさまると、浜辺には見わたすかぎり干潟が広がりました。そこに真夏の太陽がてりつけると、潮の引いた海はきらきらとかがやきます。
すると、それをまちかねたように、たくさんのシオマネキたちが、いっせいにおどりはじめます。潮だまりでは、小魚やエビたちが、泳いだり、はね回ったりしています。
そこは、海の生きものたちの楽園なのです。
そして、ほら、人間の子どもたちも、楽しそうに干潟へとかけ出していきました。向こうでは、少年たちが夢中で貝をほっています。
「よし、ここははかどった。沖のほうへ行くぞ!」
年長の少年が声をかけると、ほかの少年たちはいっせいに立ち上がりました。
「おれは、かご半分」という子。
「おれも」
といって、かごからりょう手いっぱいに貝をすくってみせる子。
「ほら」
と大きなエビをとり出してみせる子。みんな顔いっぱいにわらい、じぶんのとった貝をじまんしながら沖へ向かっていきます。
ところが、一人だけ、じっとすわったまま立ち上がらない少年がいるのです。少年のかごには、貝がほんの少ししか入っていません。年長の少年は、その子のもとに行くと、
「行くぞ」
と声をかけました。少年はしばらくの間すわったままでいましたが、やっと立ち上がると、
「あげる」
といって、いきなりじぶんがとったわずかな貝を、ぜんぶ、年長の少年のかごに入れてしまったのです。そして、泣きそうな顔をして、
「ぼくかえる」
というと、岸のほうへ向かっていってしまいました。年長の少年は、びっくりして少年を見ていましたが、すぐにみんながまっている沖のほうへ走っていきました。
少年は、くやしくて、かなしくてたまらない気もちで、ひとり、広い干潟をあるいていました。
すると、どこからか声が聞こえてくるのです。少年は立ち止まって、まわりを見ましたが、べつに、なにごともありません。
気のせいだと思ってあるきかけると、やはり聞こえてくるのです。それも、少年の足もとからです。
「おい、少年」
とよぶ声がしたかと思うと、つま先の潮だまりから、小さな貝がピュッと潮をふいて、少年のはだしの上にとびのってきたのです。
少年は、すっかりおどろいて、しりもちをつきそうになりました。
「にげなくていいよ。ただ話がしたいだけなんだ」
と、貝はおちついたものです。
「おれは、なみうちぎわ三ちょうめのアサリだ。おまえ、さっき三ちょうめのあたりで貝をとっていただろう。あのアサリをおれにかえしてもらいたい。おまえがとったのは、おれの兄弟なんだ」
というのです。
(『月刊なぜ生きる』令和6年1月号より)
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『月刊なぜ生きる』令和6年1月号
価格 600円(税込)