「認知症?」と心配する前に知っておきたい4つの見分け方

62歳・男性

父は85歳です。母が亡くなってから、急に気力がなくなったように感じます。
家から出なくなったので、足腰が弱るのではないかと心配しています。近所の人と交流しようともしません。話しかけても、あまり表情が変わらず、「うん」と答える程度で、話をしようとしません。どのように接していけばいいでしょうか。

明橋大二先生

「認知症か?」と、心配する前に

ご高齢で、気力がなくなり、家から出なくなる、近所の人と交流しない、話しかけてもあまり表情が変わらず、話もしようとしない、となると、ご家族としては、まず「認知症か?」と心配されると思います。もちろんその可能性もないわけではありませんが、この経過からすると、私は別の原因を考えます。それは、「うつ病による、仮性認知症(かせいにんちしょう)」という状態です。

「 仮性認知症 」とは、一見、認知症かと思う症状なのですが、実際には、認知症ではなく、うつ病によって引き起こされる状態です。

認知症と見える症状というのは、例えば、「ぼーっとすることが増えた」「動作が遅くなった」「何を聞いても『分からん、分からん』と言う」「表情が乏しくなった。笑顔がない」「『何も思い出せない』と言う」などです。

このような状態は、確かに認知症でも生じることがありますが、実はお年寄りのうつ病でも生じることがあるのです。

そして重要なことは、認知症は、基本的にはなかなか回復を見込めず、徐々に進行していく病気なのです。薬といっても、今のところ進行を遅くすることしかできません。しかし、うつ病の場合は、治療によって回復することができます。それが大きな違いです。

ですからそういう意味で、認知症なのか、 仮性認知症なのかを見分けることは、とても大切な鍵になってくるのです。

「認知症」と「うつ病による、仮性認知症」
 どこが違うのか

では、認知症と仮性認知症は、どこが違うのでしょうか。その違いを、いくつか述べてみたいと思います。

まず発症のしかたですが、認知症だと、いつとはなしに発症する、という形で現れます。「だいたい、何年前頃から」と、おおよそのことは言えますが、何年何月から、ということは、はっきり言えません。家族が気づかないうちに発症していた、ということもあります。発症のしかたが極めてゆっくりとしているのです。

それに対して、仮性認知症の場合は、だいたいいつ頃から、というのが比較的はっきりと特定できます。何年何月頃から様子が変わってきた、ということを家族が言うことができます。比較的、急速にその変化が現れてくるのです。このように、発症のしかたに、違いがあるのです。

次に、きっかけですが、認知症の場合は、特にきっかけとなる出来事がなく、徐々に発症してきます。「家に一人で帰ることができず、警察のやっかいになった」という出来事がきっかけで家族に知られることはありますが、それがきっかけで発症したのではありません。潜在的に進行していたものが、その時、明るみに出たということです。

しかし、仮性認知症は、多くの場合、きっかけになる出来事があります。多くは配偶者や家族との死別、体の病気による入院や手術、長年やってきた仕事の退職・引退、引っ越しなど。いわゆる「喪失体験」といって、長年慣れ親しんだものとの別れ、喪失、変化がきっかけになることが多いです。

また、病気の自覚においても違うことが多いです。認知症の場合は、自覚していても、周囲の人が心配するほどには、本人には自覚のないことが多いです。「ええ、ちゃんと分かりますよ」「大丈夫です」と、ちっとも大丈夫ではないのに、問題を認めないことが多いです。

それに対して、仮性認知症の場合は、「何も分からなくなってしまった」「何も思い出せないです」と必要以上に自分の状態を悲観的にとらえていることが多いです。本当はそれほどでもなくても、実際以上に自分の状態を悪くとらえています。病気の自覚があるどころか、ありすぎるところが、また心配なところでもあるのですが。

対人関係にも違いがあります。認知症の場合は、社交性は比較的保たれます。表面的な会話はできますし、愛想もいいです。たとえ分かっていなくても、分かったふりをします。しかし、仮性認知症の場合は、早くから外出しなくなり、人との接触を避けるようになります。人と会うのがおっくうになるのです。


以上のような違いがあります。ただ、上記は典型的な場合であって、実際には判断に迷う場合もあります。不安な場合は、早めに専門医を受診して、きちんと診断してもらうのがいいでしょう。

プロフィール

明橋 大二(あけはし だいじ)

心療内科医。
昭和34年、大阪府生まれ。
京都大学医学部を卒業し、現在、真生会富山病院心療内科部長。

児童相談所嘱託医、NPO法人子どもの権利支援センターぱれっと理事長、富山県虐待防止アドバイザー、富山県ひきこもり対策支援協議会委員、介護保険審査会委員を務めるなど、子どもから大人、高齢者のメンタルヘルスに幅広く関わっている。

(『月刊なぜ生きる』令和4年1月号より一部抜粋)

「仮性認知症」は初耳でした!しかも、治療によって回復できる点が認知症と大きく異なるのですね。

本誌では続けて、「仮性認知症」への対応を明橋先生から教えていただきます。

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