Q認知症の母に、胃ろうをしても、意味はないのでしょうか

50代・女性

私の母は、78歳で、認知症があります。自宅で介護しており、物忘れはあるものの、比較的穏やかに過ごしていました。ところが、先日、風邪を引いてから食事が取れなくなり、点滴で何とか様子を見てきましたが、それも限界となり、胃ろうが必要な状態となっています。しかし、現在の主治医は、「認知症もあるし、胃ろうをしてもあまり意味はない」「胃ろうをしても、植物状態になるだけだ」と言って、胃ろうには消極的です。私は、少しでも母に生きていてほしいのですが、このような状態で胃ろうをするのは間違っているのでしょうか。

明橋大二先生

胃ろうについて、正しい知識を持つことが必要です

胃ろうとは、胃の壁と腹壁( 皮膚)にあけた穴にチューブを通して、胃に直接栄養を入れる処置のことです。

どうして胃に直接栄養を入れるのかというと、口や、食べ物を飲み込む機能が衰えたために、誤嚥(ごえん)といって、食べ物が肺のほうに入ってしまって、肺炎を繰り返したり、体力が衰えたために、口から十分な栄養を取ることができなかったりする場合に、栄養を確保するために行われます。

胃ろうのメリットとしては、誤嚥性肺炎を防ぐことができる、鼻から管を通す方法よりも患者の苦痛が少ない、点滴よりも十分な栄養を送ることができる、管理が比較的楽、ということが挙げられます。

そういうことから、日本でも平成に入ってから急速に広まり、現在では、高齢者の130人に1人は、胃ろうを使っているといわれます。

その一方で、高齢者施設などで寝たきりの人に、どんどん胃ろうを導入したことから、寝たきりの人を機械的に延命させているだけ、高齢者の尊厳をむしろ損なうのではないか、という批判が生まれ、胃ろうに関して、賛否両論相半ばしているのが現状です。


ご相談の場合も、主治医は、人間はいずれ死にゆくもの、親もいつかは死んでゆく、そういう現実を受け入れなさい、という意味で、言われているのかもしれません。

ただ、少なくともご相談に書かれた内容を読むと、主治医の言われていることには、いくつか医学的に正確でないところがあるように思います。

一つは、「胃ろうをしても、植物状態になるだけだ」という言葉です。

実は、胃ろうという処置そのもので植物状態になることはありません。植物状態とは、大脳の機能がほぼ完全に失われている状態ですが、ご相談の内容を読む限り、「物忘れはあるものの、比較的穏やかに過ごしていた」とありますので、少なくとも現在は植物状態ではありませんし、胃ろうを入れたことで植物状態になることはありません。むしろ、栄養状態が改善することで、認知症は回復しなくても、活気は改善する可能性があります。

もう一つは、「認知症の人に、胃ろうをしてもあまり意味はない」という言葉です。しかし、認知症といっても、いろいろと程度があります。確かに、認知症の末期には、完全に寝たきりとなり、表情もなくなり、コミュニケーションも全くとれない、という状態になることもあります。しかし、認知症の初期から中期では、ある程度の会話もできますし、笑顔が出ることもあります。認知症というだけで、すべての思考や感情が失われているわけではないのです。

今回、体調を崩して、口から食事が取れなくなったということですが、胃ろうをすると、もう口から物を食べられなくなると思っている人も多いです。しかしそんなことはありません。経鼻胃管(鼻から胃に管を通す)よりも口から食べる練習はしやすいですし、たとえ認知症であっても、栄養状態の改善によって、口から食べられるようになる可能性もあります。決して胃ろうに意味がないとはいえません。

そのように、医学的に正しい知識を持ったうえで、最終的には本人の意志、それが確認できなければ、家族で十分話し合って、方針を決めることが大切だと思います。

(『月刊なぜ生きる』令和5年7月号より)

続きは本誌をごらんください。

『月刊なぜ生きる』令和5年7月号
価格 600円(税込)