Q認知症の義母の、介護を続ける自信がなくなりました

52歳・女性

認知症の義母(83歳)の介護をしています。主人は仕事で忙しく、私一人で義母の世話をしています。先日、義母に、「私の財布がない。アンタ、盗んだでしょ。私の財布、返して」と言われてしまい、ショックでした。しかも、主人にも、近所の人にも「嫁が財布を盗んだ」と言いふらしています。主人は「困ったな」と言うだけで、何もしてくれません。私は、義母に一生懸命尽くしてきたつもりなのですが、義母は私のことが嫌いなのでしょうか。介護を続ける自信がなくなってしまいました。

明橋大二先生

「財布を盗られた」このような妄想は、認知症の介護の現場でよく起きています

超高齢社会といわれる今日、認知症と診断されるお年寄りの数は、年々増加の一途をたどっています。統計によれば、2025年には、65歳以上のお年寄りの5人に1人が認知症を発症するといわれていて、認知症とそのケアは、今やこの社会の最大の課題の一つといっても過言ではないと思います。

認知症の症状には、大きく分けて、二つの症状があります。中核症状と、周辺症状です。

中核症状とは、脳の細胞が壊れることによって起こる症状です。記憶障害(もの忘れ、さっき起きた出来事を忘れる、自分が置いた場所を忘れる、など)、見当識障害(年月日や時間、季節、場所などが分からなくなる)、実行機能障害(物事の段取りを考えて実行すること─例えば料理をするなど─ができなくなる)などです。

周辺症状とは、BPSD*といわれ、行動・心理症状といわれることもあります。これには、不安・抑うつ、徘徊、暴力、暴言などがありますが、その中でも、頻繁に見られるものの一つが、お尋ねの「自分の財布を盗られた」という妄想です。

これを一般には「物盗られ妄想」といいます。多くの場合、自分の財布やお金を盗られた、という訴えで、説得しても、その時は落ち着いても、また同じ訴えを繰り返します。

そしてその対象となるのが、多くの場合、いちばん身近で介護をしているお嫁さんです。

お嫁さんとしては、自分の夫の大事な母親なので、それなりに一生懸命介護をしています。この方が、「一生懸命、義母に尽くしてきたつもり」と言われるとおりです。息子である夫よりも、よほど日常的に関わって、誰よりもお世話をされてきたと思います。それなのに、それに感謝されるどころか、泥棒扱いされ、身に覚えのない濡れ衣を着せられたら、どんな人でもショックを受けますし、悲しくなると思います。さらには、義母に対して、強い怒りを感じて、介護しようという意欲さえ失せてしまうことにもなりかねません。

このようなことは、実は、認知症の介護の現場では、頻繁に起こることなのです。

「物盗られ妄想」は、なぜ、起こるのか

ではこのような症状に対して、私たちはどのように対応すればよいでしょうか。

確かに、一面では、これは脳細胞が壊れることによって起こる症状なので、脳細胞が壊れることを少しでも遅らせる薬がいくつか開発されています。そのような薬を服用することも一つの方法でしょう。

しかしそれと同時に、このような物盗られ妄想は、単に脳細胞の問題だけではなく、それにプラスして、社会的・心理的な要因が関わっているといわれています。

それは何かというと、孤立感と不安感です。

確かに、物盗られ妄想では、きっかけとして、中核症状の一つである、記憶障害が関わっていることは事実です。自分が置いた場所、隠した場所を忘れてしまう、さらには、置いたり隠したりしたこと自体忘れてしまう。そこで「大切な物がなくなった」と探し回ることになるのですが、そういう人が皆、物盗られ妄想にとらわれるわけではありません。

そこから妄想に発展するには、もう一つ、その人の「生活が満たされていない」状況があります。日々の楽しみや張り合いがない、退屈で何もすることがない。自分がしたいことはなかなかできず、いちいち家族に聞かなければ行動できない生活。自分の存在価値が感じられず、家族のお荷物になっているのではないかと感じる毎日。そんな中で、大事な物がなくなると、そのことしか考えられなくなるのです。

認知症の専門家は、「物探しをしないと心が満たされないという心理状態に陥ってしまっていることこそが問題」と指摘します。「物がなくなった」ということ以外に、関心を向けるべきこと、やるべきことがなくなってしまっている、そういう生活こそが問題なのだ、ということです。

また、別の専門家は、「人間関係が閉鎖的で、介護をしてもらうという一方的な関係が続いている場合」に、妄想が出やすいことを指摘しています。

*BPSD……Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia

(『月刊なぜ生きる』令和5年6月号より)

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