歎異抄の旅【滋賀・福井編】
敦賀への山越え
義経も苦しんだ険しい道

琵琶湖を北上された親鸞聖人(しんらんしょうにん)は、海津港(滋賀県高島市マキノ町)に上陸されたあと、北陸路へと進まれました。

800年以上も前のことですが、親鸞聖人が歩まれた道筋には、多くの旧跡が残されています。

まず、海津港から5キロメートルほどの所にある「念仏池」(マキノ町上開田)を見に行きましょう。

「念仏池」は、どこに?

親鸞聖人が街道を歩いていかれると、杉の大木のほとりに池があり、清水がこんこんとわき出していたそうです。

その水を、親鸞聖人がすくって飲まれ、近くの石に腰掛けて、旅の疲れを癒やされたと伝わっています。

地元の人たちが、その池を「念仏池」、そばの石を「親鸞聖人腰掛け石」と呼び、流刑のご苦労を語り伝えてきたのです。

車で上開田(かみかいで)の集落へ入り、地図を頼りに「念仏池」を探しましたが、なかなか見つかりません。

たまたま軽トラックが通りかかったので運転手さんに、「こんにちは。マキノ町の観光案内には、この近くに念仏池があると書いてあるのですが、どこでしょうか」と尋ねると、

「はてな、念仏池……。この村の歴史を最も詳しく知っているのが大西巖さんなんですよ。家はあそこだから、行って聞いてみてください」という返事。親切にも、大西さんの家まで案内してくださいました。

大西巌さんは88歳、とてもお元気な方です。

「突然、お邪魔して申し訳ありません」

「どこから来られましたか」

「東京からです」

「それは、わざわざ大変ですね」

「有名な古典『歎異抄』には、親鸞聖人が無実の罪で、越後へ流刑に遭われたと書かれています。海津港から北陸へ向かわれる時に、この近くの念仏池で休憩されたと聞きました。念仏池が、どこにあるか教えていただけませんか」

「念仏池は、アカヤの泉とも呼ばれています。この村の上水道として大切な水源なのです。ゴミや動物が入らないように、今から4、50年前に工事をして、池に囲いを作りました。そばにあった親鸞聖人腰掛け石も、今はなくなっていますね」

「そうですか、残念ですね。清らかな水がわく様子を見ることは、もうできないのですね」

「工事をする前は、わしらが、池のそばで念仏を称えると、泡がぶくぶくと出てきたものですよ」

「それくらい、豊富な水が、次々にわいているのですね。親鸞聖人が流刑に遭われ、ここを通られたご苦労が、昭和の時代までは、ずっと語り継がれてきたのでしょうか」

「そのとおりです。現在は、海津から敦賀へ向けて広い国道ができていますが、昔の街道は、ここを通っていたのです。かなり厳しい山道でしたよ。今も、その跡は残っていますけど、もう通れないでしょうね」

大西さんに教えてもらったとおりに、山のふもとへ近づくと、細い水路から勢いよく水の流れ落ちる音が響いてきます。水路に沿って登っていくと、金属のフェンスで囲まれた小屋がありました。赤茶色にさびた表示板には、確かに「念仏池」と記されています。小屋の背後にそびえる大木は、落雷のせいなのか、大きく裂けていました。

こうやって少しずつ旧跡が消えていくのかと思うと、寂しさを感じずにおれませんでした。

フェンスには「念仏池」の表示
念仏池は、小屋とフェンスで守られている

親鸞聖人有乳山旧跡
『義経記』にも出てくる難路

念仏池を過ぎると、いよいよ険しい山越えになります。

近江(滋賀)と越前(福井)の境にある峠は、有乳山(あらちやま)、または愛発山(あらちやま)と呼ばれていました。

源平の合戦で大活躍した源義経が、兄の頼朝と仲が悪くなり、奥州平泉へ逃げていく時も、この山道を通っています。親鸞聖人の流刑より約20年前のことでした。義経が有乳山を越えた時の様子が『義経記』に記されていますので意訳してみましょう。

◆    ◆

義経は海津港を出発して近江と越前の境にある山へさしかかった。

この山道は、あちこちで木が倒れているうえ、鋭くとがった岩石がむき出しになっている。しかも、枕を並べるように木の根が山道を這っているので滑りやすい。ちょっとでも踏み外すと、左右の足から、真っ赤な血が流れ出てしまう。この山の岩石で、血に染まっていない所がないくらいだ。

◆    ◆

戦場を駆け巡った武将でさえ驚くほどの難路だったことが分かります。この山道で傷つき、足から血を流す旅人が多かったので、いつしか「有乳山」は、「荒血山」と呼ばれるようになったのです。

親鸞聖人は、無事に、この難所を越えられたのでしょうか。

その答えは、敦賀へ向かう国道161号線沿いの石碑に記されていました。

車で県境を越えると、間もなく左手に見えてくる石碑です。中央に「親鸞聖人有乳山旧跡」とあり、次のような、親鸞聖人のお歌が刻まれていました。

越路なる あらちの山に 行きつかれ
足も血しおに 染むるばかりぞ

(『月刊なぜ生きる』令和4年9月号より)

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