【試し読み】仕事をしている私に、母の介護ができるか、とても不安です

53歳・女性

70歳の母が入院しました。体が弱り、足腰が衰えていくのを見ると、悲しくなります。看病しているだけでも大変なのに、退院後に、私が介護をすると思うと、できるだろうかと不安になります。仕事を辞めなければならないでしょう。母を見捨てることはできません。
でも、私の人生は、これからどうなるのかと考えると、心が重くなり、気力もなくなりそうです。

明橋大二先生

親の介護と、あなたの仕事、生き方は、必ず両立できます

大切なお母様が入院され、それだけでもショックなのに、今後、介護生活が始まると思うと、さまざまな不安で、心が押しつぶされそうになるお気持ちは、よく分かります。

「いくつになっても親は親」といわれますが、親というのは、子どもがいくつになっても心の支えであり、よりどころだと思います。その親が衰えていくのを見ると、自分の土台が崩れていくような不安を感じる人は少なくありません。

また、親の介護が必要となり、「自分が見るしかない」「他に頼る人もない」「親を見捨てることはできない。しかしそうすると仕事も辞めなければならない」「自分の人生はこれからどうなってしまうのか」という不安も、とても大きいと思います。

しかし結論からいうと、私は、お母さんがどういう状態であっても、あなたは仕事を辞める必要はないし、母親の介護と、自分の人生を生きていくことの両立は、必ずできると思います。

介護保険制度を上手に利用しましょう

「介護保険」という制度について、聞かれたことがあると思いますが、これは平成12年にスタートし、さまざまな課題はあるものの、今や私たちの社会にとってなくてはならないものになっています。

介護保険の目的は一言でいうと、「介護の社会化」ということです。

今までの日本社会は、基本的に高齢者の介護は、家族が行うのが通例でした。昔は大家族で、またお年寄りの数は今ほど多くはなかったので、家族みんなでお年寄りを介護するということが可能でした。しかし現在、少子高齢化が急激に進行しつつある結果、2065年には、現役世代1.3人で1人の高齢者を支えることになるといわれています。自分一人で親を介護するというのは、ご質問の方だけでなく、日本全体の問題になるのです。

その時に、現役世代の方が皆仕事を辞めて介護することになったら日本はどうなるでしょう。誰も働く人はいなくなってしまいます。

そんなことになっては大変なので、「これからは家族で介護するのではなく、社会全体で、高齢者を支えていきましょう。そのための必要経費は、40歳になったら国民全員が少しずつ介護保険料というものを納めて、それでまかなっていきましょう」ということで始まったのが介護保険制度です。

ですから、介護保険を上手に利用すれば、あなたも、仕事を辞めることなく、お母さんの介護をしながら、自分らしい人生を送ることができるのです。

ではどうすればいいのか、具体的にお伝えしないと安心できないと思いますので、簡単に、介護保険をどのように使えばいいのかをお話ししたいと思います。


まず介護を始めるにあたって、その地域で利用できる介護サービスの種類や、利用のしかたを知る必要があります。それには、住んでおられる市区町村の役所に行き、介護について相談できる窓口を尋たずねましょう。今や市区町村の役所で、介護の相談ができないところなどありえませんから、必ず案内してもらえるはずです。そこでまずは相談してみましょう。

また最近は、市区町村ごとに「介護保険利用ガイド」のような簡単なパンフレットを作っているところも多いので、それを読めば、だいたいの流れはつかめると思います。

もう一つ相談できる窓口としては、地域包括支援センターというものがあります。そこには保健師や介護福祉士、ケアマネジャーなど、介護の専門家が常駐していますので、無料で相談することができます。

そこでまず案内されるのは、介護保険の申請です。介護サービスを受けるには、介護認定を受ける必要があるのです(なお介護認定の申請は、本人でなくご家族でも可能です)。

必要書類を書いて窓口に提出すると、介護認定の手続きが始まります。介護認定は、まず市区町村の調査員がご本人から、日常生活や心身の状態について聞き取りを行い、一次判定を行います。それと主治医の意見書を基もとに、二次判定が行われ、介護度が決定します。

介護度とは、どれくらいの介護を必要とするか、の度合で、要支援1、要支援2、要介護1、要介護2、要介護3、要介護4、要介護5の7段階があります。


また、入院されている方では、最近は、退院の前に、今後どのように療養していくか、担当医、看護師さんと話し合う機会があると思います。特に、退院後の生活について相談に乗ってもらえる担当の看護師さんがいると思いますので、病院での生活の様子から、どういう介護サービスを受ければよいか、提案してもらえると思います。


あと、介護を始める前に、家族や親戚とも話し合っておくことも大事です。

決めておくことは次の三つです。

①誰が主たる介護者(介護する人)になるのか。また、他の家族や親戚はどの程度関わることができるのか。

②在宅で介護をするのか、施設に入るのか。

③経済的な負担をどう分担するか。


ご質問の方の場合は、①は、娘さん、②は在宅、ということのようですから、あとは経済的な負担をどのように分担するかを話し合う必要がありそうですね。

(『月刊なぜ生きる』令和3年12月号より)

本誌では続けて、在宅で利用できるサービスをご紹介しています。

全文をお読みになりたい方は『月刊なぜ生きる』令和3年12月号をごらんください。

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