命の「はっぴーえんど」を願って
在宅医療の今を描く

漫画家・魚戸おさむさん

人生の終末期を迎えた時、病院ではなく住み慣れた家で過ごしたい。そんな素朴な願いを支える「在宅医療」と「看取り」の現場を初めて漫画にしたのが、漫画家・魚戸(うおと)おさむさんだ。毎回、「死」と隣り合わせの場面が続く異色の作品だが、主人公の医師と、患者やその家族の心のふれ合いに「私も、こんなお医者さんに診てもらいたい」という反響が相次いだ。かけがえのない命を見つめる作品を多く描き続けてきた魚戸さんは、どんな思いをペン先に込めたのだろうか。

患者と家族と医師の
心のふれ合い物語

魚戸さんといえば、昭和63年から雑誌に連載の始まった『家栽の人』などの作品でも知られる。植物の好きな家庭裁判所の判事が、さまざまなトラブルを温かい眼差しで円満な解決に導く物語はこれまでに5回、テレビドラマ化もされている。

そして今回、「在宅医療」を題材にした作品のタイトルは『はっぴーえんど』。『ビッグコミック』に5年前から連載され、昨年は、新型コロナで混乱する現場の様子も描いた(単行本は全10巻)。

「よく漫画にしたよねって、ボクの師匠(漫画家の村上もとかさん)からも言われました。毎回、主役みたいな人が亡くなっていく話なので、ボク自身、発想当初はまずそんな漫画ってありなのかなって思いました」。

東京・練馬区の石神井公園に近い自宅兼仕事場で、魚戸さんは苦笑いしながらそう振り返った。

「でも、人生の終末を精一杯、生きようとする患者さんとその家族、それを支える医師との心のふれ合いに目を注ぐと、そこには大切な物語があると感じたのです。それと、在宅医療がまだよく世間に知られていないので、読者の方には自分の話として読んでもらえたらと思いました」

見過ごしてきた
人生で大切なこと

主人公は、北海道・函館にある「あさひ在宅診療所」の医師、天道陽(てんどう あさひ)。看護師とともに毎日、車で診察に飛び回る。待っているのは、いずれも治療の望みがなくなった患者さんだが、天道先生は、肉体の痛みを緩和するケアをしながら、患者さんが悔いのない日々を過ごせるよう、心のケアに心を砕く。

母と息子の絆の再発見、気持ちのすれ違っていた兄弟の再会、離れていた旧友との和解、家を捨てた男とその娘の再会……など、それぞれの人生で見過ごしてきた大切なことを果たせるよう、天道医師が手助けしていく。

時には、小学生の女の子から「本当は、人は死んだらどうなるの?」と聞かれ、当惑しながらも懸命に命の意味を伝えようとする天道先生の姿はまた、魚戸さん自身の姿でもある。「人間とは何か、ということが問われてくる在宅医療の世界は、知れば知るほど奥が深くて、描くのがきつくなってくることもありました」と魚戸さんは振り返る。

そんな苦労も乗り越え、深刻な場面もふんわりと温かく包み込む「命を見つめる漫画」は、どのように生まれてきたのだろうか。

仕事場で最新作の執筆に取り組む魚戸おさむさん。にこやかだった表情がぐっと引き締まる

やっと気づいた
「死」は日常の風景

──人の死をめぐるテーマを選んだきっかけは。

ボクの両親は早く亡くなったのですが、10年ほど前、妻の弟と、妻の父母の三人が病気で相次いで亡くなって、人はほんとにあっけなく死んでしまうんだなって思いました。人が死ぬというのは日常の中の普通の風景ということに、ボク自身がやっと気づいたんですね。

でもこれはボクだけじゃなくて、今の日本人の多くはふだん、死ぬということをあえて考えないようにしている、と何度も聞いたことがあります。日本では、病院で死ぬ人の割合が7割くらいなので、身近な日常から死の光景が消えているせいもあるのでしょう。

でも、日常生活の中に必ずやってくるのが死なのですから、日頃から目をそらさず、身近に考えていれば、いざという時も、突然「えーっ!」と慌てるのとは、ちょっと違った対応ができるんじゃないかって思うんですよね。

(『月刊なぜ生きる』令和4年9月号より)

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