Q食べる時、口からこぼすようになった母に、食事を楽しんでもらうには?

61歳・女性

80代の母は、食べる時に口から食事をこぼすようになりました。
「年だからしかたないよ」と励ますのですが、本人は「恥ずかしい、情けない」と言い、楽しみにしていた外食も控えるようになってしまいました。
食事を楽しんでもらいたいのですが、どのように心掛けたらいいでしょうか。

明橋大二先生

「年だから」「どうしようもない」と思わず、積極的に対策と予防を

年齢を重ねると、人は少しずつ筋力が衰え、身体の動きも悪くなります。それは食べることに関しても同じで、食事を口からこぼしやすくなったり(「食べこぼし」といいます)、むせやすくなったりします。

確かに、この質問者の方の言われるとおり、「年だから」というのは、ある意味、事実です。

しかし現在の医学ではこの状態を必ずしも「どうしようもないこと」とはとらえていません。むしろ、この状態を、「オーラル・フレイル」と名づけて、積極的に治療していこう、予防していこう、という運動が広がっています。

「フレイル」というのは、最近、医学や介護の現場でよく使われるようになった言葉で、「虚弱」という意味ですが、年を重ねて、心身の活力や筋力、社会活動が低下した状態をいいます。

「オーラル」というのは、「口の」という意味で、食べたり(食べ物をかんだり、飲み込んだり)、しゃべったりすることです。唇や舌、歯、のどなどが関係してきます。

ですから「オーラル・フレイル」とは、年を重ねて、口の機能が低下してきたことで、食べにくくなったり、飲み込みにくくなったり、滑舌が悪くなったりすることです。

これがどうして問題かというと、身体的、社会的に悪循環の状態になるからです。

身体的には、食べにくい、かみにくいことで、食事の摂取量が少なくなります。そうすると、栄養が不足し、筋肉がやせていきます。そうすると摂食に関係する筋力が低下して、よけい食べにくくなる、という悪循環になります。

社会的には、うまく食べられないことで、人と食事をする機会が減ったり、しゃべりにくくなることで、人との会話が減ったりします。そうすると、会話に関係する筋力が低下して、よけいしゃべりにくくなり、よけい人と会うのがおっくうになる、という悪循環になるのです。

たかが口のことといわれるかもしれませんが、このことは実は、寿命の長さにも関係してきます。現在、わが国の死因は、第一位がガン、第二位が心疾患、第三位が老衰、第四位が脳血管疾患、第五位が肺炎です。そして高齢者の肺炎の大部分は、誤嚥性肺炎です。誤嚥性肺炎は、うまく飲み込めなかった食べ物などが気管に入って炎症を起こすことから起きます。それを防ぐためには、歯磨きなど口の中の清掃を積極的に行うことと、誤嚥の防止です。ですから、口の機能低下が、命に関わることにもなるのです。

ですから、現在の医学界では、「オーラル・フレイル」を防いで、口の機能を保つことを、人生百年時代の健康増進のために、とても重要視しているのです。

食べこぼしの防ぎ方

それではまず、ご質問のお母さんの状態に対して、「食べこぼし」をどう防ぐか、書きたいと思います。

食べこぼしには、次の4つの段階があるといわれます。

①口まで運ぶ間にこぼしてしまう(摂食時)

②口に入れる時にこぼしてしまう(捕食時)

③口に入ってから、咀嚼している間にこぼしてしまう(咀嚼時)

④飲み込んだ瞬間に飛び出してきてこぼしてしまう(嚥下時)

それぞれについて、対策を述べます。

(『月刊なぜ生きる』令和4年10月号より)

続きは本誌をごらんください。

『月刊なぜ生きる』令和4年10月号
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