Q定年を迎え、これから、どう生きればいいか、途方に暮れています

65歳・男性

今年で定年を迎えました。今まで仕事ばかりしてきたので、特段趣味もなく、次の就職先も決まっていません。「人生100年時代」といわれますが、これからどう生きていけばいいのか、途方に暮れています。これから何を支えに生きていけばいいでしょうか。

明橋大二先生

人生100年時代が到来!
一人一人が、対応力を身につける

令和4年7月、厚生労働省は、日本人の平均寿命が、男性81.47歳、女性87.57歳になったことを発表しました(令和3年簡易生命表より)。

新型コロナの影響もあり前年よりやや下がったとはいえ、世界的に平均寿命は延び続けており、日本においては、2007年生まれの人のなんと50パーセントが、107歳まで生きると推測されています。

まさに人生100年時代の到来です。人類が長い間求めてきた、長寿社会が実現しつつあるわけで、人類の英知と医療の進歩の成果だと、皆で祝福してもよさそうなものだと思います。

ところが、この質問者のように、延びた命で何をしていいか分からず、逆に不安と戸惑いで、退職後に、うつ状態になる人も少なくないのが現状です。

この方が生まれた昭和30年代初頭の男性の平均寿命は、約65歳でした。そうすると、その頃の人々の人生設計は、学校を卒業して就職し、結婚、出産、子育てを経て、子どもが成人した頃には退職し、まもなく死んでゆく、というものでした。

これを単純化すると、3つのステージの人生ということになります。教育のステージ、仕事のステージ、そして引退のステージです。

ところが、人生100年時代になり、引退のステージだけが、途方もなく長くなりました。ですからこれからは、この引退のステージを、ただ、仕事を引退して、悠々自適の生活を送る、というような牧歌的なプランで乗り切ることは、到底できなくなってきます。引退後の生活を、どのように計画し、そのために必要な資産をどのように準備し、得てゆくか、ということが極めて大切なことになるのです。

そういう意味では、もはや人生は、3つのステージではありません。仕事を退職したあとに、第3のステージ、第4のステージ、第5のステージと、大きな変化の節目がやってくる、マルチ・ステージの時代となっているのです。

具体的な例を示すと、例えば退職後の次のステージは、セカンドキャリア、転職して別の仕事に就き、そこで新たな経験を重ねる。75歳を過ぎたら、それも引退して、今度は、地域貢献、ボランティア活動などに力を入れる。85歳を過ぎると、いよいよ体も無理がきかなくなってくるので、趣味のサークルに入り、自分の好きなことに打ち込む。90歳を過ぎたら、介護サービスを使いながら、体に負担のかからない趣味にシフトしていき、そして天寿を全うする。

一人一人が、そのようなマルチ・ステージに備え、対応力を身につけていかねばならないのです。

引退後の生活を、幸せに乗り切るために

ではそのマルチ・ステージの時代に必要なことは何でしょう。

大切なのは、目に見える資産(お金、家、土地など)と、目に見えない資産のバランスを取ることだといわれます。

お金の大切さは、誰でも分かると思います。しかし目に見えない資産とは何でしょう。

それは、心身の健康、知識やスキル、そして家族や友人などとの人間関係、この3つです。


私たちは、今まで老後の備えとして、退職金や年金などのお金の心配をしてきました。また、終の住み処として、マイホームを建てた、という人もいるでしょう。確かにそういうものは、老後の生活を支えていくのに必要なものではありますが、しかし退職後の人生期間が長くなった今、それだけでは幸福な生活を送ることはできないのです。

それらの目に見える資産を生かし、日々の充実した生活に結びつけてゆくために、どうしても必要なのが、前に述べた目に見えない、3つの資産です。

(『月刊なぜ生きる』令和5年5月号より)

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『月刊なぜ生きる』令和5年5月号
価格 600円(税込)