友情は海を越えて本の交流で日韓の心をつなぐ(翻訳者 自由寄稿家・舘野晳さん )

「腹を割ってつきあうと、韓国の人たちの率直で明快な人柄に魅せられます」──。そんな思いを語るのは、日本と韓国の本の交流を開拓してきた舘野晳(たての あきら)さん(86)。韓国政府から「出版文化功労賞」を贈られた初めての日本人でもある。その原点には、敗戦による大陸からの「引き揚げ」体験の記憶がある。痛ましい歴史を繰り返さないためにも「国の枠を超えた、人間同士の交流が根づいてほしい」と願う舘野さんに、その半生を振り返ってもらった。

「ハングルを読めるの?」
病院で人気者に

舘野さんが昨年、体調を崩して入院していた時のこと。ベッドで本を読んでいると、「え〜、ハングルを読めるんですか?」と看護師さんがのぞき込んできた。「それからは、いっぺんに看護師さんたちのウケがよくなっちゃったんです」と舘野さんはほほえんだ。

韓国を旅行したことのある看護師さんも多く、イケメン俳優の名前を挙げ、韓国人と結婚したいと言う女性もいた。「韓国の存在は、本当に身近になってきましたね。今昔の感があります」。「冬のソナタ」の大ヒット(平成15年)以来、確かにドラマや映画、Kポップ、K文学などが日常の風景となってきた。

韓国の魅力について舘野さんは「韓国の人たちの率直・明快で、裏のない豪放磊落(ごうほうらいらく)さは今の日本人が失ってしまったものではないでしょうか。韓流ブームの根にも、そんなところがあるような気がします」。

一方、韓国側についても「本当は、日本が好きなんですよ。強い関心があります」と言う。「ただ、歴史問題があり、公の場では親日派とは思われたくない人もいます。また、たとえ意見は異なっていても、歴史的な事実をきちんと認識したうえで話し合えば、お互いの存在を認め合うことはできます」

今、政治・外交上の冷え込みの中で思うのは、「せっかく文化の交流がここまで来たのだから、あだ花で終わらせずに、しっかり根づかせたい」ということだ。何しろ、舘野さんが韓国に関心を持った五十年前の日本には、韓国語を学べる場所も入門書もほとんどなかったのだから。

知っておきたい
習慣の微妙な違い

東京都庁の職員だった舘野さんは昭和43年、中小企業の現状を知るため韓国を初めて訪れた。そこで、かつて日本で高校教師をしていた朴恩玉(パクウノウ)さんに出会う。以来、「韓国のことをもっと知ってほしい」と言う朴さんから紹介され、韓国の作家や詩人、教師などさまざまな人たちとの交流を広げていくことになる。

日本では、翻訳家、安宇植(アンウシク)先生の元で韓国語のグループ学習に参加、次第に翻訳の仕事も手伝うようになる。「知らなかった世界がどんどん開けていくようで、楽しかったですね」。ただ、訪韓を重ねる中で、人間関係の「距離感」の微妙な違いに驚くこともあった。

「例えば、韓国では、男女を問わず手を絡ませて歩いたり、同性同士が一つの布団で寝たりすることもよく見かけます。一緒に食事をしている相手の顔や体が次第に接近してくることもありますが、これらは皆、韓国では自然な親しさの表現なのです」

会議でも、「日本人は、周囲の意見を探りながら自分の意見を述べがちですが、韓国では、まず自分の主張を展開し、相手をいかに説得するかということにウエイトが置かれます。子どもの頃からそのように育てられるので、議論したら日本人はかないません」

「だから、親しくなるには、相手の背景にある文化や歴史、日常の習慣などを知っておくことが大切なのです」

(『月刊なぜ生きる』令和4年6月号より)

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