認知症の原因となる「難聴」の予防を
健康に欠かせない「生きる目的」
ドイツ人医師、フーフェラントに学ぶ

医療法人真生会真生会富山病院院長
真鍋恭弘医師(医学博士)

「認知症」の発症に、加齢などによる「難聴」が深く関係していることが最近の研究で明らかになってきた。その予防法を分かりやすくアドバイスした書籍が4月に出版される。タイトルは『耳が遠くなると、認知症が近づく』──。本書ではさらに、高齢化社会を幸せに生きる秘訣をドイツ人医師、フーフェラントの言葉を通して紹介している。健康長寿にはどんな心得が必要なのか。著者の真鍋恭弘医師に聞いた。 

衝撃の研究論文
「難聴」が危険因子

耳鼻咽喉科の医師として30年以上の経歴を持つ真鍋医師は現在、富山県の総合病院、真生会富山病院の院長を務めている。

今回の出版について真鍋医師は「難聴によって認知症のリスクは2倍になることが分かってきましたが、まだほとんどの人がその関係を知りません。国内でも認知症の患者さんが600万人を超える中、本書でまとめた予防策をぜひ多くの方に活用していただきたいと思っています」と語る。

真鍋医師が、認知症と難聴の関係に注目したきっかけは、英国の医学雑誌『ランセット』で2017年に発表された研究論文だった。そこには、「難聴は認知症の重大な危険因子」「認知症患者の約9パーセントは、難聴が原因で発症する」とあり、世界に大きな衝撃が走った。

真鍋医師も「患者さんを診察する中で感じてきたことと、この論文の内容があまりにもピタリと一致したことに驚きました」と振り返る。

補聴器で「孤立」解消
別人のように元気に

真鍋医師は、聴覚が衰えて気力を失っていた人が、補聴器の装着によって、見違えるように元気になる例を数多く目にしてきたという。

── 補聴器によって、どのように変わるのですか。

難聴の方は、家族に連れられて診察室に入ってきますが、皆さん、「認知症かな」って思うくらい、話しかけても反応がないのです。それで私も家族に向かって話してしまうのですが、その患者さんが補聴器を着けると、別人のように表情が豊かになります。

無口だと思っていた人が急におしゃべりになることもあるので、こちらがびっくりするほどです。「何十年ぶりに人の声をまともに聞けました」とうれしそうに話す人もいます。

──音がよく聞こえると、世界が変わるのですね。

患者さんはそれまで、音のない世界にいて、孤立していたということなのですね。家族と一緒に暮らしていても、会話に加われないので、次第に相手にされなくなっていきます。孤立や孤独は、認知症の大きな要因となっています。

患者さんに図を示しながら説明する真鍋医師

「年を取ると耳が遠くなる」は間違い

── 補聴器を使う人はまだ少ないのですか。

65歳以上の3人に1人は難聴またはその傾向があるとされますが、日本での装着率は、本来着けるべき人の2割に満たず、欧米の半分くらいという調査結果があります。「年寄りに見えるから」と、敬遠する人があることや、補聴器はきちんと調整しないとよく聞こえないという問題もあります。その人の耳に合うよう調整するリハビリには約3カ月は必要なのです。

従来、補聴器は、補聴器屋さんにお任せするという風潮がありましたが、最近は医師が補聴器の処方に積極的に関わるようになってきました。孤立してしまうことのないよう、患者さんにはきちんと調整された補聴器でその効果を実感してほしいですね。

──難聴の予防にはどんな心掛けが必要ですか。

年を取ると耳が遠くなる、と思っている人も多いのですが、90歳でもよく聞こえる人はいます。難聴にはさまざまな原因がありますが、日頃の注意点としては、大きな音を聞き続けない、動脈硬化にならないようにする、といったことがあります。動脈硬化になると毛細血管の血流が悪くなり、耳の中で音をとらえる神経細胞が栄養不足になって死滅してしまうのです。

健康のための健康法
健康は何のため?

──今回出版される本では、まず難聴の予防法などを記したうえで、ドイツ人医師、フーフェラントの言葉が紹介されています。これは、どのような意図からですか。

認知症と難聴の関係をお伝えするのが大きな目的でしたが、私としてはこの機会に、「何のための健康なのか」ということも改めて考えていただきたいと思ったのです。これがしっかりしないと、どんな健康法も長続きしないと思うのです。

書店には、さまざまな健康法を記した本が並んでいます。体にいい飲食物、運動のやり方などいろいろありますが、いずれも「健康のための健康法」なのですね。そんな中で、「何のための健康か」ということを中心に据えて健康法を説いているのが、約200年前のドイツ人医師、フーフェラントだったのです。

──どんな人なのですか。

フーフェラントは、日本でいえば、江戸時代後期の人で、その著作は、緒方洪庵*らによって翻訳され、日本の医療関係者に大きな影響を与えました。日本に「医の心」を伝えてくれた恩人のような人なのです。

彼の本には「医師は、人のためにこの世に生を得ているのでございまして、おのれ一個人のためにではございません」などの言葉もあります。私も医師になった頃に読んで深く感動したのを覚えています。

*緒方洪庵……江戸時代の医学者、蘭学者。大坂で私塾「適塾」を開いた。フーフェラントの著作を翻訳した『扶氏(ふし)経験遺訓』などを国内に紹介している

(『月刊なぜ生きる』令和5年4月号より)

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