【小説】泣こよかひっ飛べ
第6回 浜之市

(前回までのあらすじ)

桜島を臨む港の舟を見て「武者修行の旅に出発しよう」と約束した捨八たち。まだ幼い啓一郎は残るように言われたが、ただ一人、舟に乗り込んでしまう。不安や躍動を胸に懐きながらの舟旅も終え、いよいよ舟は帆を下ろして浜之市の港へ入っていった。

沖で薄く霞んで見えたのは、山側の日当山の辺りで、港に沿った浜之市の町は、青い空と太陽の光に照り映えて、まるで、港を取り囲むようにして立ち並ぶ納屋の白壁の白を、まばゆいばかりに見せびらかしている風である。

「とも綱を頼むぞ──」

舟頭が岸に向かって大きく叫んで舟が着いた。

舟はぴったりと岸に横づけされた。

舟が着くと、舟客が降りる前に三人の揚げ場人足が慌ただしく舟に乗り込んできたかと思うと、あっと言う間に舟荷を降ろした。

それに続いて舟客が降り始める。するとどこから現れたのか、数人の愛嬌に満ち満ちた印半纏の男や女が寄ってきて、舟を降りる客をつかまえては「宿はおとりか、それとも先をお急ぎか」と、まだ陽は高いのに、無遠慮にもう今夜の宿をすすめる。無言で片手を振って、これを断る人もいれば、早速つかまって商談に入る人もいて、舟の着いた時はまったく静かだった周辺が、急に賑やかに、騒々しくなった。

何人目かに続いて啓一郎が降りた。すかさずそこに男がやってきた。

男は「お侍さん」と声をかけると、顔一杯に愛想をつくって、やはり「宿はおとりか、それとも先をお急ぎか」と、啓一郎の袖を引こうとした。

「宿はいらん」と、啓一郎はサッ!と袖を払った。男は呆れたような顔をして手を引いた。が、すぐにまた笑い顔を作って、他の客に声をかけている。

舟客も、それを引く客引きも手慣れたものである。十名ほどいた舟客も客引きたちも、あっと言う間に引いて、舟着場はたちまちのうちにもとの静けさに戻った。

(『月刊なぜ生きる』令和4年7月号より)

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