【小説】泣こよかひっ飛べ 第18回 桜島へ③

(前回までのあらすじ)

桜島を臨む港から、一人、旅に出た啓一郎だが、父からの手紙を受け取り、3日間の旅を終え、帰路に就く。半年の月日がたち、父に「桜島に登りたい」と告げる啓一郎。父が段取りをしてくれた道案内の文吉から、桜島の案内を受け、自分の住む城下町との違いに驚きながら、火口を目指して登り始めたのであった。

◆◇◆

溶岩の間を抜けるようにして登る、灰色に覆われた道は、今や地面とて見えず、次第に異様な趣を見せ始めた。

本来なら緑一色の木葉も、すべての葉表が灰色と化している。

この廃墟のような中にあって、確かに色のあるのは、太陽と青空の下に動く二人の姿だけである。

風に吹き上げられた灰が強烈な太陽の光に照らされて、青い空に立ち昇った。

その時、文吉が言った。

「灰が目に入らないようにお気を付けなさい。気張らずに、ゆっくりと登ったらよろしいのです」

と言って、文吉は、こう申しては、と失礼を謝して、更にこう言った。

「山に登りたいとこの桜島においでになられる他方の人は、火口まで簡単に登れると思っておられるのです。確かに、ご城下からこの桜島をご覧になられたら、そう見えましょうが、そうじゃありません。私ら桜島の人間でも決してたやすくはありません。本当にいい時をとらまえて登らなくてはなりません。ですが、そうそうそんないい時なんてあるものじゃありません。ですから、一生のうちに二度も火口まで登った者など、そういるものじゃありません」

と言って、苦々しい顔をして手を横に振った。

「たいがいの人は、山に登ったといっても火口まで登ったわけではありません。途中で引き返しているのです。そんなことは、いくらでもあります」

と言って、今は幸いこうして歩けるが、途中で噴火したら、すぐ引き返す。そうでなくとも噴き上げた灰の上は熱くて歩くのもままならない、と念を押した。

啓一郎は灰に覆われた道を歩いた。

(『月刊なぜ生きる』令和5年10月号より)

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