鎌倉殿と『歎異抄』|『百人一首』の中に、三代将軍・源実朝の歌
NHKの大河ドラマ「鎌倉殿の13人」の舞台の一つ、神奈川県鎌倉市を訪ねてみましょう。
そもそも、「鎌倉殿」とは、何なのでしょうか。
平安時代の終わりに、京都で栄えた平家一門と、東国を中心とする源氏の武士団が激しい戦いを繰り広げました。
この源平の合戦に勝利した源頼朝(みなもとのよりとも)は、鎌倉に入り、本格的な武家政治を開始したのです。
「鎌倉殿」とは、この武家政権のトップであり、鎌倉幕府の将軍のことです。
次に、「13人」とは、何を指すのでしょうか。
鎌倉幕府に、代々13人の将軍がいたという意味ではありません。
幕府を開いた頼朝のもとには、有力な家臣(御家人)が、13人いたことを表しています。大河ドラマで小栗旬さんが演じている主人公の北条義時(ほうじょうよしとき)も、この13人の中の1人でした。
『百人一首』の中に、
三代将軍・源実朝の歌
「歎異抄の旅」として注目したいのは、鎌倉幕府三代将軍・源実朝です。
実朝は、歌人としても有名でした。
多くの歌を詠んでいます。その中でも、『百人一首』に選ばれた次の歌には、人生を考えさせる響きがあります。
世の中は 常にもがもな 渚こぐ
あまの小舟の 綱手かなしも
(意訳)世の中は、いつまでも変わらず、平和であってほしいなあ。
浜辺に立って、広い海を眺めるのは気持ちがいいものだ。
目の前の波打ち際には、漁夫の小舟が浮かんでいる。
よく見ると、陸にいる人が、その小舟の舳先に綱をつけて引いているではないか。
なんとのどかな風景だろう。
平和で、幸せな日常生活が、ずっと続いてほしい……。これは、すべての人に共通する願いだと思います。
どんな心境で、実朝は、この歌を詠んだのでしょうか。
鎌倉市の由比ヶ浜に、実朝の歌碑があります。800年後の今も、のどかな風景が広がっているのでしょうか。
JRで、東京駅から鎌倉駅へ向かいます。鎌倉駅からは、「江ノ電」の愛称で親しまれている江ノ島電鉄に乗り換えます。住宅と住宅の間をすり抜けるように電車が進み、5分ほどで長谷駅に到着。
駅から海の方向へ歩くと、道路の先に、日の光を反射して輝く相模湾が現れてきました。
浜辺に出ると、多くの人が、ヨットやサーフィンを楽しんでいます。
1月下旬の、風の冷たい日でした。天候は曇り。真冬の海です。寒くないのだろうか……と、見ていて心配になるくらいです。
寂しさが漂う歌
源実朝の歌碑は、鎌倉海浜公園(坂ノ下地区)の中にありました。
黒っぽい石に刻まれています。でも、なぜか、歌碑の台の部分が傾いています。じっと見ていると、波をかき分けて、大海を進む大船の形をしていることが分かりました。
そうすると、実朝の歌、「世の中は 常にもがもな 渚こぐ あまの小舟の 綱手かなしも」が刻まれている部分は、大船の帆に当たります。とても趣向を凝らした歌碑です。
さて、実朝と大船、そして『百人一首』に選ばれた歌には、どんな関係があるのでしょうか。
私が歌碑の写真を撮っていると、ちょうど目の前の海を、ヨットが通り過ぎていきました。800年前の実朝は、この場所に立ち、漁夫が小舟を引く光景を眺めて、「世の中は、いつまでも変わらず、平和であってほしいなあ」と願い、歌を詠んだのかもしれません。
何気ない日常の一コマに、心の安らぎを覚えたのでしょう。しかし、どこか、寂しさが漂っているように感じるのは、なぜでしょうか。
その謎を解くには、実朝が鎌倉幕府の第三代将軍に就任するまでの経緯を知る必要があります。
(『月刊なぜ生きる』令和4年3月号より)
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『月刊なぜ生きる』令和4年3月号
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