【試し読み】東日本大震災の被災地で、 新聞を一人で発行し続けてきたジャーナリスト菊池由貴子さん

東日本大震災から10年。この町の復興の足取りをたった一人で取材し、新聞を発行してきた女性がいる。地元で生まれ育った菊池由貴子さん。道路や防潮堤などの復興は進んだものの、その過程で見えてきた災害の教訓を語り伝えてこそ、「本当の復興になる」と今日も取材、発信に奔走する。

「大槌町は絶対にいい町になります」新聞で宣言する

小さな町の新聞、『大槌新聞』が産声を上げたのは、被災から1年余りが過ぎた頃だ。A3判2ページで、週1回発行。コピー機で印刷した数十部を町内外の希望者や、仮設住宅の集会所に届けた。

創刊号の見出しは、「みんなで学ぼう 大槌の町づくり」。「防潮堤はどれくらいの高さになるの?」「盛土をして家を建てられるようになるまで、何年かかるの?」など、復興事業に住民が抱く「?」に、分かりやすく答えた。身近な復興情報に加え、夏の高校野球地方大会でベスト8に進出した大槌高校の活躍を伝える「ありがとう大高野球部」などの見出しも躍った。

新聞はやがてタブロイド判4〜8ページとなって広告枠を拡大し、念願の全戸無料配布を実現。町からの補助金がなくなった平成28年にはついに「一般社団法人 大槌新聞社」として独立した。当初から菊池さん一人で取材・編集を進めてきたが、さらに広告対応、事務経理などもこなすようになった。

新聞には毎号、「大槌町は絶対にいい町になります」という〝宣言〟を掲載した。この文字には「みんな疲れているけれど、復興するまでもう少し頑張ろう」の願いを込めた。

新聞は、復興に向かう町民の背を後押しする一方、もう一つの大きな課題を掲げていた。それが、災害の教訓をいかに伝えるかということだった。

(『月刊なぜ生きる』令和3年3月号より一部抜粋)

本誌では、災害の教訓を伝えるための取り組みや、入退院を繰り返した20代を経て日々を全力投球で生きる菊地さんの姿をご紹介しています。


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