【試し読み】本日も、晴天なり 芝難儀|中仕切り(人生の折り返し)
※これは撮影用の台本です。絵コンテ(画面に映る画です)を参照に映像を想像しながらお読みください。
祖父母の自宅
祖母、掃除の途中で居間を覗く。祖父、居間で新聞を読んでいる。しばらくして、祖母、洗濯物を取り込む途中で居間を覗く。
祖父、先ほどと同じ姿勢で新聞を読んでいる。
またしばらくして、祖母、空の買い物袋を提げて居間を覗く。祖父、先ほどと同じ姿勢で新聞を読んでいる。
祖 母「おじいさん、新聞に穴が開きますよ」
祖 父「え?」
祖 母「夕飯のお買い物に行ってきますね」
祖 父「うん」
祖 母「一緒に行きますか? まだ早い時間ですから。ゆっくり歩いても大丈夫よ」
祖 父「いや、いい」
祖 母「でもね、先生も、毎日少しずつでも動かないといけないっておっしゃってたでしょう。それがリハビリになるって。ねぇ?」
祖 父「いや、いい。スーパーは遠いからな」
祖 母「そしたら、角の公園まで一緒に来てくださいな」
祖 父「一人でいってこい」
祖 母「もう」
祖 母「そのうち、足腰が本当に立たなくなったら、誰が面倒みるんですか」
黙る祖父。
祖 母「わたしはみませんよ」
黙る祖父。
祖 母「じゃあ、わたしは行きますね」
祖母、玄関へ向かう。
祖父、祖母を呼び止めて。
祖 父「おい、そこにある枕とってくれ」
祖 母「(何か言おうとするが、あきらめた顔で)はいはい」
祖母、居間に戻り枕を祖父に渡す。
祖母、再び玄関へ向かう。
祖父、再び祖母を呼び止めて。
祖 父「あと、ビールが無かったな」
祖母、 振り返るが、無視して出かける。
恵子の自宅
恵子が実母と電話中。
恵 子「でもね、お母さん。この間も言ったけど、やっぱりそろそろ、お父さんもデイサービスに行ってもらったほうが良いと思うの。足腰も弱ってきているし、ちょっとは外出してもらわないと。毎日毎日、二人で顔を突き合わせていたら、お母さん何もできないでしょう?
え? お父さん行きたくないって言っているの? どうして?
え? 会社の役員まで勤め上げたのに、年寄りと一緒にお遊戯なんてできないって? 役員だったの何年前の話よ。だいたい、地元の零細企業じゃないの。デイサービスに行くことと何の関係があるのよ。
そう。でも、もう少し説得してみないとだめよ。
それで、何の話だったかしら。あ、そうそう、今日の夕方ね、理恵がそっちに寄るって。そうそう。もう大学生よ。そっちの方に用事があるっていうから、帰りに藤井屋でおはぎ買っておばあちゃんのとこに届けてって、頼んでおいたの。お父さんも、あそこのお菓子好きでしょ? じゃあ、よろしくね」
理恵の祖母と祖父の自宅・その日の夕方
理恵、チャイムを鳴らす。祖母が出迎える。
理 恵「おばあちゃん、久しぶり」
祖 母「理恵ちゃん、いらっしゃい。あら、すっかり大人になっちゃって」
理 恵「はい、これ、藤井屋のおはぎ」
祖 母「あら、ありがとう。わざわざ悪いわね。ちょっとあがっていってちょうだいな」
理 恵「うん、おじゃまします」
居間の椅子に座り新聞を読む祖父。
祖母がお茶を用意している。
祖 父「理恵ちゃん、久しぶりだね」
理 恵「うん、おじいちゃん元気だった?」
祖 父「ああ、元気だよ。大学はどうだい?」
理 恵「楽しいよ、とっても。あ、お茶いただきます」
祖 母「どうぞ。理恵ちゃん、こっちに用事があったの?」
理 恵「そうそう。今日ね、小さい頃に仲の良かった茉奈ちゃんの家に行っていたのよ。わたしが引っ越してから、全然会ってなかったんだけど、この間ばったり電車で会ってね。遊びに来ないって誘われて」
祖 母「そうだったの」
理 恵「茉奈ちゃんの家、相変わらず豪邸でさあ、お庭にきれいなお花もたくさん咲いているの。それに、茉奈ちゃんて小学校のときからかわいかったけど、今はすっごく美人になってるのよ」
祖 母「あら、理恵ちゃんだってかわいいわよ」
理 恵「(苦笑し)ありがと。茉奈ちゃんのうちって、となりの駅の公園寄りのところにある八代さんていう大きな家なんだけど、おばあちゃん知ってる?」
祖 母「あら、知っているわ! 八代恒三さん、おじいちゃんの小学校、中学校の同級生よ。わたしも知っているわ」
理 恵「え! そうなの? おじいちゃん、仲良しだったの?」
祖 父「いいや。仲が良かったわけではないな」
祖 母「ふふふ。恒三さんはね、女の子たちの憧れだったの。ハンサムで、勉強ができて、スポーツ万能で。あの時代なのに、ジェントルマンだったのよ」
理 恵「へえ! じゃあ、茉奈ちゃんがあんなに美人で頭が良いのはおじいちゃんの遺伝なのねぇ」
祖 母「恒三さん、野球部のキャプテンでね、わたしもよくお友達と一緒にグラウンドに応援に行ったわ。ちなみに、おじいちゃんは三年間ずっとベンチよ」
祖 父「(むっとして)余計なことを言わなくていい。俺はあいつは好かん」
祖 母「あらあら」
祖 父「だいたい、いかにも良いとこのお坊ちゃんという風体で、うさん臭いやつだったよ。俺たちの小学校は勉強もろくにできないやつが多かったからな、あいつはクラスから浮いておったわ」
祖 母「そんなことをおっしゃらないの」
理 恵「まぁ、わたしも、おじいちゃんの遺伝ってことね」
祖 父「(さらにむっとして)不満そうだな」
祖母と理恵、顔を見合わせて笑う。
祖 母「そういえば、恒三さん、大学を卒業されたあとは、外交官になられたのよね」
理 恵「あ! 聞いたことある。茉奈ちゃんのお父さん、小さい頃から海外生活が長かったって。おしゃれねぇ」
祖 父「ますます、好かん」
祖 母「最後はどこかの国の大使をされたって噂で聞いたけれど、わたしも何十年もお会いしていないわね」
理 恵「ふうん。あ、そういえばね、その茉奈ちゃんのおじいちゃん、今は車椅子で、毎日、地域センターの近くにあるデイサービスに通っているんだって」
祖 母「あら、そうなの」
おはぎを食べ談笑する理恵と祖母。
祖 父「(独り言)ふぅん。デイサービスに。あいつが、車いすで。そうか……。ふぅん」
恵子の自宅・数日後
恵子が実母と電話中。
恵 子「あら、そうなの! よかったじゃないの。お父さんデイサービス行ってくれる気になって。一回だけって? まあいいじゃない。行ってみたら、案外良くてまた行こうって思うかもしれないじゃない。
でも、なんで急に行く気になったのかしら。ちょっと見てみたくなったって? どうしたのかしらね。まあ、でも良かったわ!」
(『月刊なぜ生きる』令和3年12月号より)
初めてデイサービスへ行くことになった「祖父」。
そこで、因縁の(?)同級生・ 八代さんと再会することになるのです。
続きをお読みになりたい方は『月刊なぜ生きる』令和3年12月号をごらんください。
『月刊なぜ生きる』令和3年12月号
価格 600円(税込)