【小説】泣こよかひっ飛べ 第17回 桜島へ②

(前回までのあらすじ)桜島を臨む港から、一人、旅に出た啓一郎。父からの手紙を受け取り、三日間の旅を終え、一度帰路に就く。半年の月日がたち、その間、旅への思いを蓄えていった啓一郎は、「桜島に登りたい」と父に告げる。父は、心配する母を諭し、中間の太吉の知人に桜島の道案内を依頼してくれた。かくして、翌朝、啓一郎は桜島に向けて出発するのであった。

◆◇◆

夜明け前に前浜の港を出発た帆舟は、ほどよい風を受けて、一時程で桜島の小さな港に着いた。

桜島は平穏だった。火も噴かなければ、石や灰も降らず、山鳴りもない。啓一郎は静かな港に降り立った。

両刀をたばさんで、野袴に打飼いといういでたちの啓一郎が舟を降りると、30歳がらみの百姓風の男が近寄ってきた。

文吉と名乗った男は太吉の言うように実直な人間だということが、山に登るのに必要な物だけを備え持ったその身支度からも一目見てわかる。

二人は短い挨拶を済ませると、早速、火口を目指して歩いた。幅一間程の道は、ほとんど灰に覆われた緩い坂道である。

その灰を踏んで歩いた。

のこぎり状の尖った赤黒っぽい溶岩の大きな岩塊が二人を威嚇する。

長い年月にも風雨にもおかされずに、広大に横たわっている溶岩の間から丈、5、6尺程のそう高くない緑の木が群生している。松の木である。

赤い溶岩と灰色の道にあってその緑は眩しいほどに鮮やかである。

窓を閉め切った小さな人家が岩の間に点々と目に留まる。

それにしても、何という村の光景だろうか。

(『月刊なぜ生きる』令和5年9月号より)

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