【試し読み】悲しい恋の物語、滝口寺 『平家物語』と『歎異抄』

『平家物語』には、悲しい恋のエピソードが、いくつも描かれています。

その中でも、横笛という名の女性と、平家に仕える武士・斎藤時頼の別れは、強烈な印象を与える場面です。

明治時代には、この二人の悲恋を描いた小説『滝口入道』(高山樗牛著)が大ヒットし、後に映画化もされました。

横笛と時頼ゆかりの寺が、京都市の嵯峨にあることが分かりました。滝口寺です。観光案内の情報には、あまり出てこないので、これまで見つけることができませんでした。

今回は、滝口寺を訪ねて、『平家物語』と『歎異抄』の関係を見ていきましょう。

親に結婚を反対されて

JR京都駅から、嵯峨嵐山駅へ向かいます。

11月下旬、紅葉シーズンでしたので、観光客があふれていました。

嵯峨嵐山駅から、小倉山方面へ歩いて二十分くらいで、祇王寺と滝口寺の前に到着します。

祇王寺へ入る坂道を上っていくと、途中で滝口寺へ向かう道と分岐しています。

狭い階段を上ると山門があり、「滝口寺」と額が掲げられていました。

滝口寺の山門

さらに階段を上っていくと、小倉山を背にして建つ小さな寺がありました。周りの樹木が、赤や黄色に色づいています。

ここが滝口寺です。

もとは往生院三宝寺でした。明治時代に廃寺となりましたが、昭和初期に「滝口寺」として再建されたものです。

この場所で、どのようなドラマがあったのでしょうか。『平家物語』には、次のように描かれています。

◆◇◆◇◆◇

平清盛が、絶大な権力を握っていた頃のことです。

清盛が、都から福原(現在の神戸)へ向かう道中、淀川の河口付近で宿泊しました。その夜の宴席で、酒をつぎに出た11歳の女性に目がとまります。遊女宿の主人の娘、横笛(よこぶえ)でした。その美しさに引かれた清盛は、横笛に、自分の娘の身の回りの世話をする仕事を命じたのです。

それから何年かあと、横笛に恋文を送る男性が現れました。宮中を警護する武士、斎藤時頼(さいとう ときより)です。二人は、深く愛し合うようになったのです。

ところが、時頼の父が激怒します。

「おまえを、地位や権力のある家の婿にして、思いのままに出世させ、幸せな暮らしができるようにしてやろうと思っていたのだ。横笛のような、身分の低い女との結婚は許さん! 別れなさい!」

父は、無理やり、二人の交際を禁じたのでした。

時頼は、深く、思い悩みます。

「この世は『老少不定』といわれる。年老いた者から順に死ぬとは決まっていない。若いとはいえ、自分もいつ死ぬか分からない。人の一生とは、火打ち石の光のように、一瞬の間のことでしかないではないか。

たとえ長生きできたとしても、70歳、80歳を過ぎることは、めったにないだろう。しかも、人生の中で、体力も気力も盛んな時期は、わずか20年あまりだ。

そんな夢まぼろしのような世の中で、好きでもない女と結婚して、地位や金、財産を得ても何になるというのか。

しかし、愛する人と結婚すれば、父の命に背くことになる。勘当されたら、彼女と生きていくこともできなくなるだろう。どうすればいいのか……」

悩んだ末、時頼は、こう決断します。

「いずれを選んでも、死ぬ時に悔いが残るであろう。しかし、このような煩悶が起きたからこそ、私は、無常の世の中で、なぜ生きるのかを考えることができた。私は、仏道修行に身を投じ、永遠に変わらない幸せを求めたい」

19歳の時頼は、髪をそって僧侶となり、嵯峨の往生院へ入ったのでした。

横笛は18歳になっていました。彼女は、時頼が出家したと聞いて驚きます。

「私を捨てるのは、しかたがないとしても、出家して姿を消してしまうなんて、ひどすぎます! どうして私に何も言ってくれないの! 二人の心は通じ合っていると思っていたのに……。 とにかく一度、あの人を訪ねていって、私の想いをぶつけないと、気持ちが治まらないわ」

ある日の夕方、横笛は供の女性を一人連れて、嵯峨の奧へ向かいました。

紅葉に彩られた現在の 滝口寺。
横笛が訪ねてきた気持ちを思うと胸が痛む……

(『月刊なぜ生きる』令和4年1月号より)

愛する時頼を想って横笛は嵯峨の往生院へと急ぐのでした。

果たして二人の結末はどうなるのでしょうか?

さらには二人の悲しい別れを通して、『歎異抄』には男も女も差別なく、すべての人がありのままの姿で救われる教えが仏教であることを明らかにしています。

全文をお読みになりたい方は『月刊なぜ生きる』令和4年1月号をごらんください。

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